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2011年8月20日土曜日

シリーズ[鬼の住処]


(子供たちが『桃太郎』の絵本を棚から持ってきた:
♪「お話、お話、パチパチパチパチ、うれしい話、たのしい話、シッシッシッ
シッ静~か~に聴きましょう。何かな、何かな…」♪ 「はい、これ読んで!」)

  「むかし、むかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
  おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。すると
  大きな桃が流れてきました。喜んだおばあさんはその桃を背中に担いで帰
  って行きました。
   桃を切ろうとすると、桃から大きな赤ん坊が出てきました。二人は驚い
  たけれども、とても幸せでした。その子は桃から生まれたので、桃太郎と
  名づけられました。桃太郎はあっと言う間に大きくなり、立派な優しい男
  の子になりました。
   ある日のことです。桃太郎は二人に言いました。『鬼ケ島に悪い鬼が住
  んでいると聞きました。私が行って退治しましょう。』…」

「ねぇパパ、鬼ってどこにいるの? お外にいるの? 悪いことするの?」

(そのとき流れたテレビのニュース:)
  「千葉県柏市で、2歳の長男に十分な食事を与えずに死亡させたとして、
  両親が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕されました。…司法解剖の結果、
  長男は紙切れやプラスチックのようなものを口にしていたことが分かり、
  警察は、男の子が空腹に耐えかねて身の周りのものを口に入れていたと
  みて調べています。男の子の体重は同年代の男児の平均13キロに対し、
  5.8キロしかありませんでした。…」

(こんな鬼のお話はいかがでしょうか)
  「遠~い、遠~い昔のことでした。ある小さな島に、ふたりの男の子が生
  まれました。ふたりは何をするにも、いつも一緒でした。一緒に山に行っ
  ては虫や木の実をとり、川に行っては魚をとり、夜寝るときも一つ枕に仲
  良く頭をのせて、おしゃべりをしながら眠りました。
   ある日のことでした。ふたりが山にいくと、とってもかわいい赤ちゃん
  ウサギが泣いていました。ふたりが『どうしたの?』とたずねると、『お
  母さんがいなくなっちゃったの』とウサギが答えました。『じゃあ、ボク
  たちが一緒に探してあげるよ。』そういってふたりは一所懸命ウサギのお
  母さんを探しました。でも、夜になっても、お母さんウサギはみつかりま
  せん。このままでは赤ちゃんウサギはお腹を空かせて死んでしまいます。
  ふたりはウサギを家に連れて帰り、一緒に暮らすことにしました。
   ふたりはウサギがとってもかわいかったので、大事に、大事に育てまし
  た。ウサギもふたりがとっても親切だったので、ふたりのことが大好きで
  した。ふたりは、毎日、競い合うように、ウサギの好きなものをみつけて
  は持って帰りました。ある時は、山からウサギの大好物の葉っぱをたくさ
  ん持って帰りました。またある時は、川にあった枯れ木でトンネルをつく
  ってあげました。
   ところが、だんだん、ふたりは自分のことだけを好きになってもらいた
  くて、よくケンカをするようになりました。このウサギは自分のものだと
  言っては相手を叩いたり、蹴飛ばしたり、引っ張ったり、しまいにはひと
  りが持ち帰った物を隠したり、壊したりするようになりました。
   乱暴になっただけではありません。もう島にはウサギにあげる物があま
  りないので、小舟で近くの島々に渡っては、村人の物を盗んでくるように
  なりました。
   そんなある日、ウサギが山に帰ると言いだしました。ここにいたらふた
  りがケンカばかりするので、山に帰りたくなったのです。それを聞いたふ
  たりは腹を立てて、ウサギを殺して食べてしまいました。
   ウサギがいなくなると、代わりの物が欲しくなり、いろいろな動物をつ
  かまえては飼ってみましたが、いつも最後は取り合いになり、ケンカして、
  殺して、食べてしまうのでした。
   そんなことを繰り返すうちに、月日が流れ、ふたりの両親もこの世を去
  り、大人になったふたりだけが島で暮らすようになりました。それでも仲
  の悪いままのふたりは、あいかわらずケンカばかりしていました。
   両親がいなくなってからは盗みもますますひどくなり、最近では物だけ
  でなく人間までさらってくるようになりました。さらわれた娘たちがどう
  なったかはわかりません。村人たちは体の大きな醜い形相のふたりのこと
  を『人さらい鬼』とか『人食い鬼』と呼んで恐れるようになりました。そ
  していつしかこの島は『鬼ヶ島』と呼ばれ、誰も近づかなくなりました。」

「鬼」はどこにいるのか? 
それはきっと人の中に棲みついているのではないでしょうか? 

人は誰でも欲望を持っています。独占欲、支配欲、情欲、食欲、…。そして、
放っておくと、それを満たすためなら何でもするし、満たされないと怒りが生
まれ、暴力が生じます。我欲を満たすためなら、平気で我が子を殺してしまう
人さえいます。

誰の心の中にもいる鬼。その鬼の芽を(1)押し込めるのか(抑制)、(2)
コントロールするのか(制御)、(3)摘み取るのか(消去)。

プレクシャ・メディテーション(ジャイナ教の瞑想)は第(3)番目の道(=浄化)を
目指しているようですが、はたして本当にそれは可能なのでしょうか?
自分自身で確かめてみるしかありません。


<著:中村正人>
(協会メールマガジンからの転載です)