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2013年1月26日土曜日

コラム[来世不動産]

台湾の友人から添付メールで面白い動画が送られてきた。日本で作られ、フジ
テレビ系列で放映された「来世不動産」という短編ドラマである。人間の生ま
れ変わりについてとても示唆に富んでいて、哲学的でありながら面白可笑しく、
ペーソスにも満ちていて、深く考えさせられ、また感動した。このドラマはお
笑い芸人で人気があるバカリズムが原作を作り、脚本を手がけまた出演すると
いう、15分程の短編ドラマだ。ドラマの主な出演者はバカリズムと俳優の高橋
克実の2人である。

話の筋は以下のようなものだ。

物語の主人公である高橋克実が病院のベッドで寝ている。真夏の暑い昼下がり
病室の開け放たれた窓の外で蝉がうるさく鳴いている。そこへ克実の奥さんが
病室に入ってきて蝉の鳴き声がうるさいと窓を閉める。すると克実は別次元の
大草原に仰向けに横たわっていて、ふと気がついて起き上がる。克実は死んで
死後の世界に入ったのである。何もない大草原にただ一軒、現実離れした不動
産屋がある。店に近づき恐る恐るドアを開けると、店の中から店長のバカリズ
ムの「いらっしゃい」の声がかかる。克実は「ここは不動産屋ですか」と尋ね
る。バカリズムは「1つの人生の契約を終えた方(死んだ人)に次に生まれる
物件を紹介する不動産屋です。つまり魂が次に宿る体を賃貸住宅のように紹介
しているのです」と答える。店には入居者募集の張り紙があり、人間の他、蛇
や魚、パンダ、猿などが入居条件と金額に代わるポイントと共に掲示されてい
る。

克実はそれらの張り紙を見ながら、入居希望としては日本人の男として生まれ
たいと言う。バカリズムは「人間ですか?人間は人気があって、人間に生まれ
変わるのは、前世の行いが良くないと難しいです。」と言う。克実は「人間で
ないこともあるのですか?」と尋ねると、バカリズムは「もちろん」と答える。

「このパソコンにお客様の名前と生年月日を打ち込むと、お客様の行いリスト
がすべての事柄と回数になってデータとして記録されている。良い行いも、悪
い行いも、普通の行いも全て記録されていて足し引きしてポイントが出るよう
になっている」と言って克実のデータを調べる。前世で31390回洗面し、358回
ポイ捨てし、675匹の蟻を踏みつけ、19回コンビニの入口でボロ傘を新しい傘
に取り替えたと表示され、忘れてしまっていた些細な悪事を思い起こして愕然
とする。これらはマイナスポイントになる。いじめられていた子供を9回助け
たのはプラスポイントになる。結果、克実のトータルポイントは82000ポイン
トだった。平均点より少ない。

克実は「82000ポイントだとどんな物件ありますか」と尋ねる。バカリズムは、
この予算だと人間も無くはないけれどもあまり良い条件のものがないので、む
しろ他の物件にした方が幸せではないかと言って犬に生まれることを勧める。
ここにある土佐犬なら闘犬で横綱になれるという。克実は「私は争いごとが嫌
いだから、動物ならのんびりしたものが良い、できれば長生きが良い」と答え
る。バカリズムは、「それならミル貝はどうですか?160年生きられるし、砂
の中でのんびりと160年長生きできますよ」。克実は、160年も砂の中でじっと
しているのは嫌だ、他にはないのか、パンダはダメかと聞くが、パンダは一応
絶滅危惧種指定物件であり克実のポイントでは足らず入居出来ないと言われる。

バカリズムは、北海道の乳牛はどうかと提案する。「のんびりしているし、生
活環境も良いし、定期的に乳を絞られるだけで人間関係の悩みもないし、仕事
に追われることもないですよ。なんなら内見しませんか?」許諾すると次の瞬
間、克実は不動産屋のバカリズムと共に北海道の牧場にいて牛を眺めている。
搾りたての牛乳を飲みながら、「乳牛になると牛乳を搾り取られるだけでこの
ように飲むことができない、一生人に飼われる生活は嫌だ、もっと自由な生き
物が良い」と勧められた物件の乳牛を断る。

そこで、バカリズムは「最近人気がある蝉はどうですか」と克実に尋ねる。
克実は「蝉の生活のどこが良いのだ」と不機嫌に聞き返す。「蝉は7年間地中
で暮らし、最後の1週間だけ地上に出てきて生涯を終えるといいますが、この
1週間が実は天国の暮らしでとてつもなく気持ち良く、人間の夜の営みで得ら
れる100倍もの快楽があり、蝉の鳴き声は鳴き声というより快楽から来る絶叫
なんです。それに蝉は悪いことをする機会がないのでポイントが貯まります。
蝉に入居してそこでポイントをしっかり貯めて次の来世にかけるというのはど
うですか」と勧められる。ついに克実は蝉への入居を決意し、契約書に捺印す
る。

そして、51歳で人間としての生涯を終えた克実はあるアブラゼミの長男に生ま
れ変わった。地中での7年間の暮らしは蝉なのでストレスもなく、暇とか退屈
とかいう概念がないので苦ではなかった。地中での7年の長い生活を終え今日、
初めて地上に出た。初めて浴びる光、初めて空を飛ぶ、初めて吹かれる風の心
地よさ、なんという自由さ、なんという爽快さ、なんという喜び快感、至福感
で思わず絶叫してしまう。ミーン、ミーン、ミーン・・・・・蝉は最高、蝉は
最高、・・・・・・」

留まった木からふと下を見ると、そこは克実がかって人間だったときに息を引
き取った病室で、自分と同じような人間が死にかかっていた。蝉の克実は、生
まれ変わるなら蝉が良いとその人に伝えたくて思いっきりミーン、ミーンと泣
き叫んだ。ところが、不意に奥さんが病室に入ってきて空いていた病室の窓を
バシャッと閉めた。 

終わり

このドラマはジャイナ教の生まれ変わりの哲学そのものである。不動産屋のパ
ソコンが私たちのカルマボデイであり、様々なデータが原因としてのカルマで
ある。自己責任の因果律と輪廻転生が結びついたとき高度な倫理哲学となる。
すべての道徳、戒律の根拠がここにある。人間が幸福になり、地球社会が平和
になるための基本原則だとおもう。

「来世不動産」は小学館の文庫「東と西2」で原作を読むことが出来ますので、
皆さん是非読んで見てください。


<著:坂本知忠>
(協会メールマガジンからの転載です)