メニュー

2011年6月13日月曜日

前回(第25回)研究会の要約(抜粋):シャリーラ・プレクシャにおける身体観と科学的説明 その2 ―瞑想効果の神経・生理学的説明―


I.シャリーラ・プレクシャの効果(資料の要約)


 現代のライフスタイルでは、一定の教育を受けた平均的な人々はほとんど例外なく頭(脳)を使って働き、生活している一方、自分自身の身体を顧みることは滅多にありません。避けることのできないストレスやそれに起因する疲れ、精神的な緊張は非常によく認識していながら、そうしたストレスや緊張の正体についてはほとんど何も理解していないのが現状です。緊張を感じてもそれがどこで起こっているのかを特定できず、ましてや自分の身体に生来防御メカニズムが備わっていて、それを作動させさえすれば過剰なストレスの影響をはね返すことができることなど思いもよらないでしょう。身体と心の健康を改善したければ、身体との結びつきを取り戻すことが必要です。


 シャリーラ・プレクシャは完全なる身体への気づきを得る唯一の方法であると同時に、真我の気づきを得る方法でもあります。身体的なレベルでは、各細胞を活性化し、消化を助け、血液の質と循環を改善し、神経系と生体電気の活動の効率を高める効果があります。心理的なレベルでは、外の事象に惑わされずに内的な現象に心を集中させる訓練になります。そして精神的なレベルでは、常に変化する生体機能を偏りなく知覚することで意識というものの傾向と性質を知り、その実体を認識することができるでしょう。(『PREKSHA DHYANA: THEORY AND PRACTICE』p.8-9「基本原則」より)


「身体の知覚」は自分と自分の身体との結びつきを取り戻し、身体に備わっている有益なメカニズムを起動させる能力を開発するのに効果的な手段です。(『PREKSHA DHYANA: THEORY AND PRACTICE』p.83-85)


神経系


脊髄、脳、そして内分泌ホルモンによって、身体、精神、感情のすべての機能が管理されています。・・・脊髄と脳によって構成されるのが中枢神経系(CNS)です。そして頭骨と脊柱から全身に枝分かれして複雑なネットワークを形成しているのが末梢神経です。このうち、内臓・諸器官の機能をコントロールしているのが自律神経系です。また、中枢神経系へ伝達物質を運ぶのが感覚神経で、中枢神経からの指令を伝達するのが運動神経です。あらゆる感覚神経と心は中枢神経に接続しており、知性、知覚、概念的な思考はすべて中枢神経系の機能として営まれています。このことから、中枢神経系は非常に重要な身体システムであるとみることができます。中枢神経が破損すると身体は機能麻痺に陥り、身体的な活動も精神的な活動も停止してしまいます。そして、私たちの身体をコントロールするもう一つのシステムが内分泌系です。


生体はこれら二つのシステムが相互に緊密に連携しあい、統合・調整されています。両者の機能的な連動を一つの統合的なシステムとみなして、「神経内分泌系」(neuroendocrine system)と呼ぶこともあります。


身体の諸機能はホルモンと呼ばれる調整化学物質を通じて、内分泌腺によってコントロールされています。内分泌腺から産出されるホルモンは個人の心的状態や感情、行動に大きな影響を及ぼし、非理性的な本能も衝動も、脳ではなく、内分泌ホルモンによって生じます。つまり、私たちの気分はホルモンによって生まれ、ホルモンから必要を満たすための行動が要求されるのです。そして心に歪み(理由のない恐怖、復讐心、残虐性等)があると、人の行動もネガティヴなものになります。


瞑想には神経系の電気的な活動を変化させ、化学的伝達物質の合成を変質させる力があることはすでに立証されていますが、身体の知覚と霊的中心点(内分泌腺)の知覚は非理性的な衝動の力を弱め、最終的には心的歪みを根絶し、悪しき行動が生じないようにする有効な手段になります。(『PREKSHA DHYANA: Perception of Body』p.18-21)


   ↓


体内免疫メカニズムによる健康の維持


cf.)精神神経免疫学という新分野について


「日々の瞑想実践は、健康の維持と回復の両面において効果的な手段です。現代医学でも、心的イメージによって精神力が回復し患者の状態が改善することは否定されていないばかりか、今や常識となっています。事実、精神神経免疫学という新たな研究分野も生まれています。


免疫システムというのは、間接感染、接触感染、毒物その他の病理的疾患から身体を護る自然の生体防御機構をいいます。また免疫学とは、感染等に対する身体の防御・抵抗性を研究する医学の分野です。精神神経免疫学という新しい分野は、この免疫系と脳、そしておそらく人の意識下に潜在する精神のあいだの相関性を研究するものです。


生得的免疫機構


生得的な免疫システムではリンパ球とよばれる免疫細胞が、病原微生物を取り込み無力化させる食細胞と緊密に連携しながら、中心的な役割を果たします。リンパ球は骨髄、胸腺、脾臓やいくつかのリンパ結節で産生されますが、その産生、活性化および免疫応答には身体の多くの器官が関与し、それらの精妙なバランス関係によって生じる高度に複雑なプロセスによって営まれています。


神経免疫学の知見によると、ストレス化にある人を詳細に研究した結果、免疫は人の気分や行動様式に大きく影響され、ストレスがあるとその機能は著しく低下することが実証されています。逆に、深いリラックスした状態と楽しい気分を維持すると、免疫系は定量的にも質的にも効率が改善します。 研究者や学者だけでなく著名な多くの臨床医や医療従事者も、瞑想と深いリラクセーションがさまざまな心身症の予防や治療に効果があることを認めています。身体の知覚への集中—シャリーラ・プレクシャ—は、自律神経系の交感神経と副交感神経の間のバランスを整え、ひいては生体の恒常性維持(ホメオスタシス)により大きな効果を発揮します。」(『PREKSHA DHYANA: Perception of Body』p.v-vi)




Ⅱ.精神(神経/内分泌)免疫学とは何か


<医学の歴史>(p.24-33)


解剖学を出発点とする「死に物」対象の医学から「生き物」を対象とする医学へ
西洋医学による東洋医学の見直しの試み=東洋医学の効果に科学性を見いだそうとする研究


<心身医学>(精神免疫学以前)(p.49-)


心身症 = 身体症状を主体とするが、その診断・治療に心理的因子についての配慮がとくに重要な意味を持つ病態(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、甲状腺機能亢進症、消化性潰瘍、本態性高血圧などが代表例


多かれ少なかれ、こころの影響を受けない病気は一つもない!
では、同じようにストレスを受けていても、人によってそれぞれ現れる症状が異なるのは何故か?


   ⇓


<精神(神経/内分泌)免疫学>(p.34-48)


定義=こころと体の関係を、脳と免疫系を中心とした生体防御機構に焦点をあてて研究する学問(p. 8)


病(いわゆる心身症から感染症、リウマチ、花粉症・喘息などのアレルギー疾患、癌に至るまで)の発症・治癒は心の状態(=感情・情動)と無関係ではない!("病は気から")


<情動とは何か、情動はどこで生まれるか>(p.55-67)


「情動」とは、固体および種族維持のための生得的な要求が脅かされた、あるいは満たされた時の「感情体験」およびそれにともなう「身体反応」。


今日では、扁桃体こそが生体の内外から脳へ送られてくる感覚入力に情動的評価を与える部位であり、生得的情動の生成においてもっとも重要な座ではないかと考えられている。


視覚、聴覚、触覚、味覚などすべての感覚情報の経路は扁桃体と連結路を形成しており、顔の表情認知にも重要な役割を果たしている。 Cf.)幼児期の記憶=情動記憶


<情動表出のしくみ>(p.67-69)


ストレスに対し、扁桃体を含む大脳辺縁系(古い脳)で起きた情動は、さらに下位の中枢であり、脳下垂体や自律神経系に一番近い視床下部で統合されて表出される(二種類の反応)。


 情動行動―逃避、怯え、すくみ、威嚇、攻撃など運動系の出力 → 暴力行動へ
 情動性自律反応―自律神経系および神経内分泌系の反応 → 心身症疾患の発症


自律神経系では、大脳辺縁系で処理された情報が、視床下部を介して、脳幹や脊髄の交感神経領域あるいは副交感神経核へと伝達され、自律神経反応を起こす。また、神経内分泌系の主な応答として、強い情動により副腎皮質を刺激するホルモンが視床下部・下垂体系から放出され、グルココルチコイドの分泌を刺激する。」


<情動ストレス>


「ストレス」= 元々は外から力が加えられたときに生じる物体のひずみをさす物理学用語。
生物学的ストレス= 外部の刺激により生体に生じる反応(H. セリエ)
情動ストレス  = 外部環境が脳において主観的世界となって表象されるとき、
 ときに強い感情を生み、しかもそれが体の変化を伴う場合をさす。


ストレスによる免疫系への影響はさまざま。一般に、ストレス状況の受けとめ方には大きな個人差がある = 「情動認知スタイル」:


ある出来事にストレスを感じるかどうか、あるいは幸福感をもてるかどうかは何が決めるのか?→ これらを決めるのは環境の客観的条件ではない。…外部環境の情報に生物学的意味判断を付与し、個人に特有の情動認知スタイルを決定するのは、遺伝と経験で作られる個人の内的特徴。=性格の生物学的研究で「気質」と呼ばれるもの(p.91-)。


<高次の情動と情動の制御>


古い脳で処理され緊急反応をもたらす感覚情報は、より進化した大脳皮質(連合野)にも伝えられ、同時並列的に、高度で詳細な感覚情報の解析が行われる(p.75)。そして、対象が危険なものではないと判断されたら、大脳皮質から大脳辺縁系に伝達される信号により緊急反応は抑制される。


笑いの効用


笑い=高次の情動は大脳皮質の働きに多くを負っている。すなわち、扁桃体と視床下部が構成する基本的な情動回路に、眼窩前頭皮質を主とした前頭葉の機能が加わる。それは同時に過去の経験と学習により、情動が修飾を受けることを意味している。…進化した動物になればなるほど、随意的に情動表出を制御できるようになる(p.76)。笑いが免疫機能に好ましい影響を与えることは医学的にも示されている。…笑いのような快情動は、交感神経の緊張をほぐして免疫系に好影響を与えるのではないか。…笑いこそ、もっとも高度に進化した、そして人間的な情動である。人は、大脳皮質が発達したからこそ、笑うことができるようになったのである(p.81)。


暗示による免疫反応の変化


「暗示」とは、人から与えられる、あるいは自ら自己へ与える言葉や刺激(暗示刺激)を、合理的に考えることなく受け入れることによって、さまざまな変化が起こる現象(暗示効果)。この効果は知覚、観念、意図、信念、行為ばかりでなく、身体反応にまで及ぶ。


(神庭重信『こころとからだの対話―精神免疫学の世界』文春新書より)


Ⅲ.瞑想効果の神経・生理学的説明(次回参照する予定の文献)


ロバート・ワレス『瞑想の生理学』


山崎正ほか『癒しの科学 瞑想法―神秘主義を超えて―』


貝谷・熊野編『マインドフルネス・瞑想・坐禅の脳科学と精神療法』


安藤治『瞑想の精神医学』


ほか


Ⅳ.身体のリハビリテーションと瞑想(次回参照する予定の文献)


松岡洋一・松岡素子『自律訓練法』


伊藤芳宏『自律訓練法の医学』


宮本省三『脳のなかの身体』


ほか